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おもためコラム

おもしろくて、ためになるコラムをお届けします。

介護と理美容(2)

前回は、訪問によるサービスのお話をしました。一般的に介護と聞くと、高齢者を連想するかと思いますが実は他にもあります。
カットすることもそうですが、社会のいたるところで苦労するのが知的障がい者です。特に自閉症者は私みたいな普通な人(あえて普通と書きましたが、“普通”は数が多いだけの事です)には理解しがたいことだらけです。
たぶん多くの人が、自閉症と聞くと、鬱病(うつ病)と一緒な感じと思うのではないでしょうか。実は、全然違うのです。自閉症は生まれつきの障がいで、重度(症状が重い)だと、話をすること、人の話を理解することなどもできないことがあり、ずっと大きな声で叫んでいたりします。軽度(症状が軽い)な人だと、まったく普通に見える人もいます。

では自閉症者はカットするにあたって、どんなことが苦労するのか?!

  • お店に入ることができない。(初めての場所は入ることができない人がいる)
  • いろいろな物を揃えてしまう。(手ふきタオルの長さ、整髪料の並べ替え)
  • 頭を不意に何度も動かす。(チックと言われる症状)
  • クリッパーやトリマーの音が怖い。(電車の通っている高架下くらいの音に聞こえる)
  • 「あと少し」「大丈夫」「目をつぶって」などが通じない。(あと少しって、どのくらい?)
  • 痛い事をされると、ここに来ると痛いと思ってしまい、来店できなくなる。

少し挙げるだけでもたくさんの事例が挙がってきます。でも、どれも理容師・美容師からすると、「えっ?!」って思うことだらけですよね。そのため、動かないように押さえつけたり、無理矢理椅子に座らせたりすることにより、「カット=痛い」と思ってしまい、忘れることのできない脳を持つ自閉症者は、カットするお店自体に入れなくなったり、パニックになり自傷したり他害したりしてしまいます。
ただ、私の経験上、中学生になるくらいまでに、適切な理解とサポートのうえでカットすることにより、多くの方が普通の方と同じようにカットすることができるようになります。お店でカットできるようになると、本人の負担だけでなく、介護者の負担を少なくすることができるのです。

また、身体障がい者にあたる、脳性麻痺の方などは、自分の意思とは反して体が動きます。その動きが結構大きく、瞬発的に動くので、とても切りづらく、どうしても「動かないでくださいね」と言ってしまいます。ところが、脳性麻痺の方は、緊張すれば緊張するほど体が勝手に動くらしいのです。ですから、「動いても大丈夫です。気にしないでくださいね。」とお声をかけるだけで、リラックスして動きがとても少なくなったりします。

しゃべりがスムーズではなく、体が細く小さい方もいらっしゃり、知能が未熟に見えるためか、子供に接するように接客されたと聞くこともあります。脳性麻痺は知的障がいではないので、年相応の人となんら変わりないのでとても失礼になります。
障がい者で、こういった悩みを抱え、どこのお店に行けば安心してカット・パーマできるのか探していらっしゃる方はとても多いです。

実は、私ははじめから介護の方へ重点を置いて理容師になろうとは思っていませんでした。サロンワークをしながら、常連のお客さんの職場(知的障がい者入所施設)へボランティアカットに行かせていただき、「ボランティアだと、来て欲しいときに来てもらえないし、頼めない。お金取ってもらって、呼びつける方がいいわ」なんて、施設長さんに冗談っぽく言われたことがきっかけで、お店に来ることのできない人に興味を持ちはじめました。
特に知的障がい者の特性を理解し、身につけることで、特別なお店になるのではないかと考え、障がい者のガイドヘルプなどの仕事に就き、経験をつませてもらいました。

ご存じのように日本は今、超高齢化社会を迎えています。
“我が国の65歳以上の高齢者人口は、昭和25(1950)年には総人口の5%に満たなかったが、45(1970)年に7%を超え(国連の報告書において「高齢化社会」と定義された水準)、さらに、平成6(1994)年にはその倍化水準である14%を超えた(「高齢社会」と称された)。そして、高齢化率は上昇を続け、現在、24.1%に達している。”※

このような現状からも、社会貢献という意味合いだけでなく、高齢者・介護者・障がい者への理解と知識が質の高いサービスを提供し、お店の売り上げを支えて行くことになると思います。また、仕事への満足度も上がっていくと確信しています。

「理容師・美容師はすばらしい職業であり、無くてはならない職業である」と社会に認知されていくよう、これからも勉強です。

※「平成25年度版 高齢社会白書(内閣府)」より一部抜粋
福永純一(ふくながじゅんいち)プロフィール
理容師・介護福祉士
1976年岡山県津山市生まれ
理容師を取得後、ホームヘルパーや移動介護の実務経験を積み、介護福祉士を取得。
訪問での技術提供と共に、バリアフリーなお店作りを目指す。2015年春、明石市に移転し今以上に幅広い客層に対応できるよう奮闘中。
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