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サービスの見える化とは
製造業や事務所では、作業のプロセスなど目に見えにくいものを見えるようにして効率化する“見える化”が経営管理手法として重要視されています。
小売業・サービス業でも、“見える化”が意識されはじめています。ただし、小売業・サービス業では、製造業のように作業の効率化を計るというよりは、顧客への効果を狙う“見える化”が多いようです。
■製造工程の“見える化”で集客
一昨年、オープンしたドーナツ専門店、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」は、まさに製造工程の“見える化”で顧客を惹き付けています。ここでは、ドーナツという目新しくないアイテムを扱いながら、いつも行列が絶えず、1〜2時間待ちの状況が現在も続いています。1号店の新宿サザンテラス店に続いて、有楽町イトシアに2号店が出来ましたが、そこでも長蛇の列ができています。
行列が絶えない理由は、目の前でドーナツが出来るまでの製造過程を見せ、作りたてを提供するドーナツ・シアターにあります。長時間並んでいる人にはアツアツのドーナツを1個プレゼントするので、出来たての美味しさを試食できることも人気になっています。
東武百貨店池袋店にある、焼き菓子バームクーヘンりんねん家も、目の前でバームクーヘンを作る様子を見せ、人気を集めています。その他、オープンキッチンで、料理やデザートを作っているところを見せるレストランなども増えています。単に食べるだけでなく、食べ物がつくられていく過程をわくわくしながら待つ楽しさを体験することに人々は魅力を感じるようです。
また、製造工程を見せることは、偽装食品なども多い中、顧客に安心感も与えています。
■接客サービスの見える化
接客サービスでも、“見える化”を意識するところが増えています。
小売業やサービス業のスタッフなら誰でも、お客様のために一生懸命サービスしようという気持は持っています。しかし、それがお客様に伝わる場合と伝わらない場合があります。伝わらなければ、一生懸命やっていることも、やっていないのと同じことになってしまいますから、同じサービスをするのにも、意識してお客様の印象に残るようなアクションをすることが大切になります。
たとえば、衣料品店では、試着室にお客様が入ったら、靴の向きを揃え直しますが、お客様の目の前で、サッと靴を揃えると、お客様の印象に残り、「この店の販売員はきちんとしている」と感じさせます。
衣料や靴のショップなどでは、サイズ探しに販売員は店頭とストックを行ったり来たりしますが、「小走り」にアクションをすることで、顧客に熱心さを感じさせます。
お買物を包んだ後、カウンターの外まで、場合によっては通路まで出て「ありがとうございました」とお見送りするのも、お客様への感謝を見える形で表すアクションの一つです。
老舗旅館などでは、お客様の姿が見えなくなるまで、お見送りします。お客様が振り返った時に、まだ頭を下げている姿が見えると、お客様は感動します。
ひとつひとつは細かいことですが、お客様への感謝の気持や熱意は目に見える行動に表すことで確実に伝わります。
サービスの現場で、うまくいっていないところでは、「一生懸命、がんばろう」「顧客を満足させよう」など、気持の持ち様について、スタッフに言い聞かせるのに止まり、具体的にどう行動すればいいのかまで示さないことが多いようです。
例えば、「顧客を満足させよう」という課題に対して、これから1ヶ月、1週間、そして今日、個々のスタッフが何をやるのか。その具体的行動の目標を見えるようにして、着実に全員で実行し、検証しているところは、具体的な成果につながっています。
大きな目標を実現するためには、日々やるべき行動の“見える化”が、どこまでできるかがポイントになります。
お客様に対して、製造過程などの“見える化”で、楽しさを提供すること、スタッフの行動目標を具体的に“見える化”して、お客様に熱意や感謝をきちんと伝えることなど、“見える化”をキーワードに今回は考えて見ました。
製造業や事務所で使われている経営管理手法としての“見える化”とは、多少観点が違ったとは思いますが、小売業・サービス業にも、“見える化”という言葉を切り口にして、顧客満足に繋がる、新しい提案や改善のポイントがいろいろ発想できると思われます。
青山女子短期大学非常勤講師(商品学流通論)。
経済産業大臣登録 中小企業診断士。